Hard to say

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「彼氏と俺とどっちかを選べ」
なんて言ったくせに自分はまだ美恵と会ってんじゃん。
昨日由香里が北野で見たって言ってた。
だいたい何処に行った訳?

一哉とのいつもの待ち合わせの歩道橋の真ん中で
下を通る快速に飛び込みたくなってきた。
待ち合わせにだって平気で1時間も遅れてくるくせに。

頭に来てもう帰ろうと思ったときに気の抜けたクラクションが鳴った。
「おーい、ごめん」

おいおい、いくらスロープだからって
こんなとこまで上がってきたらみっともないよ。

「誕生日だったよな」
ちょっとー。誰とまちがえてんの?
それにこんな花持って飲みにいけないじゃん。
おまけになんで原チャリ?
こんな超ミニとミュールはいてきちゃったのに。超不機嫌。

「何処行くつもり?」
「えへへ、映画」
「はぁ?映画?何処に?何見るわけ?」
「甲南朝日。嵐が丘。最終上映間に合うし。」
ふーん。
古いあの映画見たいって言ったの覚えててくれたんだ。

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「おまえ、ほんとに嫌な女だな。
だいたいこんなにツネることないじゃん。あざになった、ほら」
これ見よがしに腕をまくって見せる。
「だって、いびきかく?普通」
「それに、ほら、声がでかいんだよ。みんな見てる」

帰りに寄ったロイホでまた喧嘩。
どうしていつもこうなっちゃうんだろ。すごくすごく好きなのに。
「もう帰る」
「待てよ、おい」

「乗れよ」前に立ちはだかって一哉が言う。
「ノーヘルで?だいたい50ccじゃん。」
「いいから乗れ」

家までの急な坂を一気に上る。
YAMAHAの白のVogelは焦げ臭い匂いをさせている。
ミニの膝小僧が冷たい。
一哉の服をつかみながら泣きたくなってきた。

「はい。ついた」
この笑顔に弱いんだよな、私。
急に一哉が真面目な顔をして私の顔を両手ではさんだ。
「あのさ、美恵ともう会わないからさ、ちゃんとしたからさ
おまえもちゃんとしろよ、な」
「私の誕生日も覚えてないくせに・・」
って言い終わらないうちにまた一哉が言った。
「知ってたよでも、それはさ、いわゆる愛の告白って奴で・・・」

ああ、信じられない。愛の告白に赤いカーネーション?
母の日じゃないんだから。

「ばーか。浩次とはとっくに別れてたよ。だって・・・」
顔が近づいてきたから目を閉じた。

あれ?

「キスしたいけど人がいるからねーー」
大声はもう坂を下りかけていた。

「声が大きいのは一哉だって一緒だよー」
残ったのは焦げ付きかけたエンジンの匂いと赤いカーネーション。

明日言いかけたことちゃんと言おう。
「だって、一哉のこと、大好きだもん」

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2001/07/23