オフィーリア 
Vol.6
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またクリスマスが来た。
あれから4度目のクリスマスだ。
電車もバスも止まっている。
クリスマスソングがラジオから流れている。

そして僕はまだロンドンにいる。

現地採用だけどガイドの仕事もしながら
今年の秋から推薦でアートスクールに入った。
油もエッチングも無理だったけど
シルクスクリーンが目にとまったみたいだった。
たまに仕事も来る。

この4年間に3人の女の子と付き合って別れた。
寝ただけの子ならもっといる。
日本人の子はみんな帰国してしまった。
フランス人のアニ―は僕の作品をみていろいろ尋ね
「あなたは茉莉を探すべきだ」と言って出ていった。

出会いも別れもなんだかひどく簡単だった。

フラットでは少しずつ銅版を彫っている。
茉莉ちゃんの曲線を、茉莉ちゃんの肌を、茉莉ちゃんの笑顔を。
そして会いたくなったらテイトギャラリーへ行く。

根拠のない自信かもしれないが
僕は茉莉ちゃんにもう一度会えると思っている。

すべてのことには時がある。

今までの傷を打ち消すように
あの時彼女が腕に垂直につけた傷にも
きっと意味がある。

彼女の病気は治るのか悪くなるのか
僕はわからない。
だけど僕は今はもう全部受け止められると思うようになった。

茉莉ちゃんもきっとこの街にいる。
たぶん僕たちはこのひかりのまちから離れられないだろう。

そしてまた出会えたときは
あの茉莉ちゃんの作品を刷るのだ。
二人の色を乗せて。

外が明るい。
雪が降ってきた。
積もればいいな、と僕は思った。

The End

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2001/08/27