ZOE

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アタシの名前はゾーイ。
人間は猫と呼んでいるらしい。

3年前の雨の日にアタシを拾ってくれて
一緒に住んでいるのは河合くんという男の子だ。
アタシから見てもなかなかいい男の部類に入る。
仕事もできるらしい。
でも、女ったらしだ。

この部屋にはしょっちゅういろんな女が出入りする。
何ヶ月か居着いた女も、一回しか来なかった女も。

そのたびに河合君は歯ブラシを捨てたり掃除したり大忙しだ。

世の中には4種類の女しかいない。

猫好きで猫にも好かれる女
猫嫌いだけど猫に好かれる女
猫好きだけど猫に嫌われる女
猫嫌いで猫にも嫌われる女

下の二つは論外だけど。

河合くんがひとつきほど付き合った
まゆみという女は最悪だった。
アタシを見て「うわ。かわいいぃぃ〜〜。」
とか言いながら全然目は笑っていなくて
河合君のいない間にこっそりやってきては
いろいろひっくり返して見てたりした。

そんなときはアタシにも邪険にして、なんと、蹴ったりされたので
毛玉を無理していっぱい飲み込んで
まゆみが持ってきた趣味の悪い玄関マットにわざとげろげろしてやった。

河合君が居るときだけ頭を撫でたり構ってくるので
一度思いきり引っ掻いてやったら
そのあとまゆみが来るときはいつもベランダに出された。

にゃ〜にゃ〜鳴いてサッシを引っ掻くのにも疲れたころ
ベランダで懐かしい月を見ていたら
こんなこと何度も繰り返してきたんだなって急に解ったこともあった。

あいこという女は可愛かったな。
本当にすっごく河合君のことが好きみたいだった。
なんとはなしにアタシに話し掛けることがらも微笑ましく
アタシもあいこと遊んでいたら全然飽きなかった。
そんなときはアタシも
夜は二人の邪魔をしないようにおとなしく隣の部屋で寝てるんだけど
終わったあと、呼んでくれて3人(?)で布団に入ったりした。

でも、ちょっと感情の起伏が激しくて
理由は想像つくけど、よく泣いていたから
それが河合君にはちょっと鬱陶しかったみたいだった。

最後にあいこが出て行ったときアタシを見た目が忘れられない。
あれってゼツボウって言うのかな。
よくわからないけど。

それからしばらく河合君も毎日飲んでは遅く帰ってきてた。
アタシもちょっと寂しかったし河合君にも怒ってたから
毎晩、酔いつぶれた河合君に猫キックで成敗してやった。

でも、どっちにしても人間ってめんどくさいな。
猫でよかったと思うことのほうが多い。

何処で生まれたかもわかんないし
死ぬときはどっか行って
一人(?)で死ななきゃならないって掟もあるし
猫は九生生きるっていうから、あと何回かわかんないけど。

今夜は雨で月が見えないから
河合君の膝の上で雨音を聞きながらゆっくり寝るつもり。



たまに猫が窓枠に座って空を見上げていたら
月に帰りたいと思ってるんだよ。
そんなときはそっとしておいてあげてよね。

それとも、一緒に空でも見上げてみる?
忘れてた何かを思い出すかもしれないよ。

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2001/09/22