バツイチ 2

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親子3人・・・。

そう思ったとき
急に訳のわからない感情が溢れてきた。

エリカ。
エリカは泣くだろうな。
いつでも泣いてるから。
幼稚園に行きたくない。あれは食べたくないこれは食べたくない。
おなかが痛い、じゅんちゃんがいじめた、ころんでちがでちゃった
パパ、ママをいじめないでママ、泣かないでママ怒らないで
ぶたないでおこらないで、まま、まま、まま、まま。

私はこんなところで何をしているんだろう、帰らなきゃ。

「帰れないよ。」
いきなりピンクじじいが言った。
「死ぬんだから。」

指先がちりちりしてきた。
この10年何もかも間違いだったんじゃないんだろうか。
結婚は失恋の腹いせに彼よりも少しでも上の男としたかった。
だから2.3回のお見合いで一番自慢できる経歴の男を選んだ。
最初はそれでも上手くいってたしこんなものかと思っていた。
お金もそれなりにあったし何よりも夫の仕事が遅くて自由なのがよかった。
友達はまだ独身の子も多かったから夜遊びだって出来た。

でも、4年前エリカが生まれてから
全てが私の手にかかってくるようになったのだ。
毎晩夜泣きをしても夫は仕事が忙しいといたわりの声もかけてくれなかった。
自分の都合で可愛がるだけで。
わたしはひとりでいつもエリカを抱えて途方にくれていたのに。
吐いて、熱を出して、原因不明の発疹を出し
泣き、泣き、泣き続け・・・

それでも表面的には仲のいい家族だっただろう。
世間様のすることや行事はそつなくこなせるふたりだった。


「ふむふむ、あと5分。」
は?このピンクは人の心が読めるのだろうか?
「別にここは地上じゃないんだから口で言う必要は無い。」

あ、そうですか。じゃ。

・・・死ぬのかぁ。
そう思ってみればなんだかいろんな事が瑣末なことだったなって思う。
あんなしょうもないことで怒ったり突っかかったりしなければよかった。
すっかりさめてしまったような夫婦だったけれど
不器用な人だってことは私だってわかっていたのに。
仕事の大変さだって家に持ち帰ることはなかった。
彼だって疲れていたのだ、私が疲れていたように。

オフ会の帰りに名前もよく知らない人と事故に会ったなんて
世間に顔向けできないよなぁ。
それでも泣いてくれるかな、あのひと。

エリカはどうするんだろう。
泣くエリカ。笑うエリカ。
笑い転げて身体を捩じらせて甘えてくるエリカ。
ちっちゃくてふわふわしてておしゃべりで
私たちの可愛い可愛いエリカ。

私はこんな形で彼らに消えない傷を残すんだ、ああ。

泣けてきた。
どうしようもなく。

― まま、泣かないで、まま、まま。―

「はい、10分。そろそろ時間。」
私は立ち上がれなかった。
「しかし、なんだねえ。人間の幸福も不幸も似たり寄ったりだねえ。」
ピンクがのんびりした口調で言った。
「そんなもんですか?すごい幸福な人もすごい不幸な人もいるでしょ?」
「結局は自分が判断することだよ。」

いまいち理解が出来なかったのと
次の人が呼ばれたのでやっと私は立ち上がった。


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2002/02/12