Picture  1

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「ユキ、そろそろ帰らないと・・・遅くなるよ。」

リョウがすこし不安そうに言った。
夕暮れが近づいて空は下の方から
オレンジ色に染まってきていた。

「なによ、意気地なし。
家には帰らないってあたし、言ったでしょ。」

私が昨日電話で家出するって言ったらリョウは
最初はなんだかんだと説得にかかって
でも、とにかく私の意志が固いことを知ると
じゃ、一緒に行くと言って
今日は学校をサボってふたりで2時間電車に乗ってこの街まで来た。

来ては見たもののあてもなく
特にこれといった特徴もない田舎の街で
喫茶店や公園で時間を潰して夕方になってしまった。

「ひとりで帰れば?」

そういって私はさっさと歩き出した。
2つくらい角を曲がって初めて振り返ったけれど
もうリョウの姿は見えなかった。

すこしほっとして、でも、すこし心細かった。
これから、どうしよう。

さびれた商店街は半分くらいシャッターが閉まって
私だけが取り残されたみたいだった。
夕暮れがますます速度を増して
私を包み込むような気がした。

ママ。
ママが死んじゃうからいけないんだよ。
私たちを置いて逝っちゃうから・・・。
4年前に病気で死んだ母親まで恨みたくなって
なんだか私の足は動かなくなってそこに立ち止まってしまった。

私は今どんな情けない顔をしてるんだろう。
ふと見上げたウインドウの中にその人はいた。

そこは古びた、写真館とは名ばかりの小さな写真屋だった。
その人は小さ目の写真の中で
花嫁衣裳を着ていた。
そっくりだった。

私は昨日の事を思い出して胸がずきんとして
ざわざわと波立つのを感じた。

昨日は日曜日で、買い物をしたあと
予約したレストランへ行ったんだけれど
お父さんが急に紹介したい人がいると言い出して
もうそこにあのひとが待っていたんだった。

今までだってこれからのいろんなこと、
考えなかったわけじゃないけど
やっぱり私には晴天の霹靂で
新しいお母さんなんかいらないし、私のお母さんはママだけだし
なによりもそのお膳立てされたような紹介の仕方が気に入らなかった。

あのひとは若く綺麗だったけれど
45歳のお父さんには少し若すぎるような気がしたし
なんだか二人して今まで私を騙してたような
そんな被害妄想チックな考えまで浮かんで

この4年、私だって一生懸命やってきたのに
ママがいなくなってから寂しかったけど
二人で頑張ってきたのに
お父さんはママを忘れちゃうの?

いろんな考えがいっぺんに頭に浮かんで
私はろくすっぽ話もしないで
もう、前菜が出てきたときには我慢が出来なくなって
ひとりでレストランを出てうちに帰った。
お父さんが帰ってきてからも、話したくなかったから
部屋のノックをされたけれど返事もしなかった。

全てに腹が立ってなんだか悲しかった。

そんなことを思い出しながら花嫁さんの写真を見ていたら
それはとても古びていて
すこし日に焼けているのに気がついた。

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2002/02/28