Picture 2

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「お嬢ちゃん、そのひとと知り合いかい?」
「え?」

いつのまにかそばにおじいさんが立っていた。

「ああ、お嬢ちゃんと知り合いなわけないよね。
そのひと、25、6年位前に亡くなっちゃったから。」

おじいさんがしずかな優しい声で言った。

「綺麗なひとだったけどね。
子供を産んで1年くらいで亡くなったよ。
まさかそんな時にこの写真を返すわけにもいかなくて
いつかご家族にと思っているうちに引っ越していなくなってしまった。
そのあと、ご主人も亡くなったらしいって聞いたから
どうしようかと思っているうちにずっとそのままになっていたんだよ。」

「あのう・・・これ、頂いていいでしょうか?」

私は何故そんなことを言い出したのか
自分でもわからなかった。

昨日、大っ嫌いだと感情的に思った時に
ちらっと睨むように私が見た時のあのひとの顔が
とても悲しげだったのを思い出したからだろうか。

「もらってくれるなら、それにこした事はないよ。
ここ、もう閉めるから。後継ぎもいないし。」

おじいさんはまたとても静かな声で言った。

「このひとのお嬢さん、赤ん坊の時しか知らないけど
幸せになっていればいいなといつも思っていたんだよ。」

そして店から紙袋を持ってきてウインドウからはずし
私に額ごと写真を渡してくれた。
もう、とっくにつぶれたデパートの紙袋だった。

「ありがとうございました。」
私は丁寧に頭をさげた。

「お嬢ちゃんは、いい子だね。
きっといいご両親なんだね。」

こんな時間に地元の制服でもない子だということに
気がついているのかいないのか
そのおじいさんはとても温かい微笑でそう言った。

また角をふたつ曲がってしばらく歩いて私は
もう一度戻ってみようと思った。
なにか話し忘れたことがあったような気がした。
昨日の事、おじいさんに聞いてもらいたかった。
なんて言ってくれるだろうと思った。

この写真の人の子供が私の家族になるかもしれないんです
いや、そうじゃなくて・・・
父の恋人なんです・・・なんか、変。
どう言ったらいいんだろう。

どんな人かも知らないし
ふたりがこれからどうしようと思っているのかも
何も聞いてあげてなかった。

・・・でも、写真屋はみつからなかった。

確かにここらへんだったのにと思い
何度も行ったり来たりしたのに
古ぼけた看板も、ウインドウも
すっかり暮れてしまった見知らぬ街で
もう探す事が出来なかった。

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2002/02/28