あの日から(yf 編)

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駅前の喫茶店で僕らは待ち合わせをしていた。
まだ、そこに那美の姿はなかった。





僕が3杯目のコーヒーを飲み干した時、
音もなく那美は僕の隣に現れた。
「遅かったね。」 僕が言うと、彼女は照れたような微笑みを浮かべた。
「そう、遅かったの。…お互いにね。」

那美は指輪を外して、静かにそれをテーブルの上に置いた。
指輪の片隅に、微かに子供達の顔が映ったような気がした。
見上げると、彼女はもう、風に溶け込んだように消えていた。
さよなら、も言わずに。

僕の手には、あまりに滑らかすぎる指輪の感触だけが残っていた。



僕は喉仏の下、鎖骨の間の気管切開の跡を触った。
この傷の下に唯子のキスマークがある。
これで大丈夫、と彼女は確かに言った。

君は、いつも風だったんだね。
風とは、すべてのことだったんだね。

「あなたは生きなさい。」

声が聞こえた。
そうだね。目を背けちゃいけない。
眠り続けた僕を、声が覚醒させる。
消えたものを追い続ける日々は終わりだ。

背負うもののない、新しい日々が始まる。

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作者 yf
HP  yf@Network

作者コメント

とりあえずはNadjaさんの形を踏襲しつつ、
拡大解釈して書かさせていただきました。

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2002/11/28