あの日から(YUMI 編)
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駅前の喫茶店に那美は待っていた。
浮かぬ顔をして携帯で誰かと話しいる那美の姿が
店のガラス越しに見えた。
西の空には厚い雲が広がっていた。
僕は店には入らずに
タクシーで空港に向かい北の海に飛んだ。
12の夏休みに父親に連れてこられた日本海だ。
飛行機の中で勇太と麻奈のことを思い出すが
どうしても二人の笑った顔を思い出すことができない。
「いいんだ、これで。」
僕は決して「死」を求めているのではない。
「僕には必要のないもの達なんだ。」
「そうよ、いつだって捨ててかまわないのよ。」
「誰が僕を責める?」
「誰も。」
「なにもいらないよ。」
「楽になりなさい。」
右手で喉仏の下、鎖骨の間の気管切開の跡を触った。
この傷の下に唯子のキスマークがある。
これで大丈夫、と彼女は確かに言った。
「楽になりなさい。」
声が聞こえた。
そうだね。すべてを捨てて。
僕はあの日からずっとずっとこうなる事を望んでいたんだ。
冷たい水の中で誰の声も聞かずに生きることを。
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作者 YUMI
作者コメント
It's only an accident!
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2002/11/28