あの日から(ガンダルフ 編)

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駅前の花屋の中で立ち尽くしていた。

唯子の好きな花は何と言う名前だったっけ?

「この花が好きなの」

305号のテーブルクロスもない食卓の上には、
たまに、唯子のお気に入りの花が一本 
細身の花瓶に挿してあった。

贅沢なものは 何ひとつない機能的だが殺風景な部屋の中で、
その花瓶だけは、何故かオレフォスだった。



花の名前を何度か聞いたような気もするが、
その名を覚えようとはしなかった。

店の中を見回してみても、それらしい花が見つからない。

だいたい、その花が どんな色で どんな形だったのかさへも自信が無い。

僕は唯子が何が好きで、何が嫌いで、
何を僕に求めていたのか わかっていたのだろうか。
わからうとしていたのだろうか。

唯子は いつも笑顔で文句も言わずに、そのままの僕を包み込んでくれて、
僕が望む通りのことをしてくれた。

その居心地のよい安穏さに僕は いつか飽きていた。

そんな時に出遭った那美は、我侭し放題で僕を振り回した。
不条理な要求に従うことに、とまどいながらも新鮮さを感じた。

唯子は与えてくれた。 那美は求めた。

xxx

墓には 花をもっていかなかった。
唯子の好きな花を知らない僕が供花できる花は無い。

墓前で、初めて唯子の為に泣いたような気がした。

しかし それが 単なる自己満足な涙であることも今の僕には判る。

「このまま流され続けることになるような気がする」

結局何も変わらない。変えようともしない。

ラッキーストライクに火をつけて吸い込んだ煙が喉に沁みた。

何気に空を見上げると、ぽっかりと入道雲が一つだけの空。

・・いきなり唐突に頭の中の霧が晴れていくのを感じた。

「・・・・・ガーベラ??」

小走りで花屋に向かう僕だった。

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作者 ガンダルフ
HP  ガンダルフの冒険記


掲載したもののラストの4行は
最初、作者が削られたものです。
個人的には入道雲のくだりが好きだったので
私が掲載したいと思い入れてしまいました。
読まれたみなさんはどう感じられたでしょうか。



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2003/01/25